戦時下の国策本「輝く海軍航空隊」を読んで

2月に入って早々インフルエンザにかかってしまい、これでまで床に伏せてました。
余寒なお厳しい昨今の事、皆様もどうぞお体には気を付けください。


さて本題ですが、私と同じ頃にサイトを開設した旧友であり相互リンク先の模型電動士さんから、「輝く海軍航空隊」という戦時下に発行された当時を知る上で貴重な本を、二冊お持ちという事でそのうちの一冊を新年にプレゼントしていただきました。
ありがたやありがたや。m(_ _ )m


輝く海軍航空隊 01

大きさはB6サイズで、ページ数はノンブルを見ると表紙を含まず292ページからなる読み応えある単行本です。
日本海軍の航空隊がどのようなものか、その歴史から組織構成、任務、活躍などを、当時の青少年向けにやさしく解説した内容になっています。

戦時下の本なので太平洋戦争は大東亜戦争、日中戦争は支那事変と記載、文章も旧仮名遣いで、横書き文は右から左になっているのが目に留まります。



輝く海軍航空隊 02

奥付によると、発行は昭和18年(1943年)10月になっており、この頃は前年のソロモン海戦やガダルカナル戦といった南太平洋の消耗戦で開戦当初から活躍した熟練搭乗員のほとんどが戦死してしまい、海軍が航空兵力の再建に奔走していた時期なので、こういう本を出す事になった当時の国情が浮かんできます。

発行元の童話春秋社も印刷所の帝都印刷も初めて聞く企業名。配給所の日本出版配給だけはウィキペディアに載ってまして、戦時下の出版物を統制する国策会社との事でした。



そんなわけで中身をざっくり紹介します。

表紙をめくって巻頭には、零戦など海軍を代表する飛行機のグラビア写真が載ってます。ここだけ良い紙が使われており、写真の網掛けも非常に細かく鮮明でして、当時でもこの品質の印刷が出来たのかとちょっと驚きました。

輝く海軍航空隊 03

模型電動士さんに教えていただいたのですが、零戦のキャプション「わが精鋭艦上戦闘機」の「艦」の文字はよく見ると上から紙を貼って修正された物になっています。ご自身がお持ちのもう一冊の方ではそれが剥がれかかっていて、元々は「水」になっているとの事でした。水上戦闘機と誤植されていたんですね。ちなみに二式水戦の写真はどこにもありません。


グラビア写真の次には序文が載っていますが、その寄稿主は神風特攻隊の創始者であり、玉音放送の翌日に割腹自決した大西瀧治郎中将でして、当時は航空本部総務部長だったようです。

輝く海軍航空隊 04-2 輝く海軍航空隊 04-1

特攻隊が組織化されたのは、翌年10月のレイテ沖海戦からであり、大西中将はまだこの年には特攻を求める意見に対して保留の態度をとっていたとされていますが、寄稿にあたってその心中はいかばかりだったかと思いを巡らせます。


本の序盤は読者にインパクトを与えるため、ハワイ・マレー沖海戦における海軍航空隊の大戦果を紹介しています。

輝く海軍航空隊 05

どれも今日の資料本でよく目にする有名な写真とイラストで、すでに戦時下でも戦気高揚目的で一般公開されていたんですねえ。
こういった本文中の写真の品質は当然巻頭グラビアよりは劣るものの、私が幼少時の昭和40年代の新聞写真と大差ない感じで、思ってたより鮮明でした。



海軍機を紹介する章では、すでに退役済みの旧式機については正式名称まで紹介していますが、(この本が出た当時である)現役機種については巻頭グラビアの「わが戦闘機」みたいな詳細をぼかした説明に徹しており、代わりにアメリカの飛行機については諸元まで詳しく書かれています。海軍の情報取集能力をアピールする目的もあったのかもしれません。

輝く海軍航空隊 06
  • F4Uコルセア: ダブルワスプエンジン最大出力1850馬力、最大速力625km/h、航続距離2610km。
  • P-47サンダーボルト: 同上エンジンで最大出力1850馬力、最大速力505km/h、上昇限度9000m、機銃12.7mm機銃x 8門~14丁、空戦高度10000m、排気タービン、防弾タンク、防弾ガラス&装甲装備。

どちらも大まかにあっており、新鋭機ながら初飛行が戦前に行われた機種なのでまだ情報が掴みやすかったのかもしれませんが、よく調べてあるなあと思いました。



図解による解説ページもあります。以下は「鍛へる術力」という飛行機の攻撃法を解説した章。

輝く海軍航空隊 07
  1. 環状照門による射撃の説明。敵機が自機と同じ高度でその針路が直角に交わる方向にあるとき、移動距離を予測して撃てば命中するが、実際は両機の位置関係はさまざまなので、この移動距離を半径とする環状の照門とし、敵機がこの中のどれかの位置にいる時射撃すれば命中すると解説されています。
  2. 水平爆撃の説明。真空であれば、投下した爆弾は飛行機の速度と重力との合力でいつも飛行機の真下に落ちるが、実際は空気抵抗を受けるので、進行方向とは逆の方向にやや押しやられてこういう曲線を描き、飛行機が(ニ)の位置にいる時(ハ)の地点に落ちると解説されています。
  3. 急降下爆撃の説明。飛行機が目標に肉薄して投下するため水平爆撃より命中率がずっと高く、しかも移動速度が速いため敵弾を受ける時間が短くて済む攻撃術とあります。
  4. 雷撃の説明。図は魚雷に搭載されているジャイロ誘導装置のしくみ。これによって魚雷は水中の抵抗を受けても舵角を修正し、進行方向を変えずに直進出来ると解説されています。


「移動航空基地」とタイトルが付いている空母についての章。
空母がどのような目的で誕生し発達してきたか、そしてそのメカニズムや運用法について詳しく解説されています。

輝く海軍航空隊 08

ここでも飛行機の章と同じく、英米の空母については艦名を記載したキャプション付き写真で詳しく紹介していますが・・・



輝く海軍航空隊 09

日本空母に関しては、旧式化してすでに第一級戦力から外されていた若宮と鳳翔以外は、やはり「わが航空母艦」、「段甲板型(多段型の事)」と言う風に艦名を伏せてあります。それぞれの写真の空母は、中段左=加賀、中段右=赤城(多段空母時代)、下段左=瑞鶴、下段右=不明(艦橋がないので鳳翔、瑞鳳、龍驤のいずれか?)、かと思います。

現代では日本初の空母と言えば鳳翔とされていますが、この本ではそれより古い水上機母艦の若宮を初の空母と紹介しており、その理由として若宮の現役当時はまだ水上機母艦という艦種がなかったので空母と分類していたからと本文中に書かれています。では鳳翔はとういうと、日本初の制式空母と紹介されています。


アメリカの空母戦力を解説したページ。

輝く海軍航空隊 10

これによると開戦時から米海軍が保有していた空母は、この本が出た昭和18年秋においては、
  • サラトガ: 珊瑚海海戦で撃沈。
  • ヨークタウン: 珊瑚海海戦で撃沈。
  • レキシントン: ハワイ西方洋上で撃沈。
  • エンタープライズ: ミッドウェー海戦で撃沈。
  • ホーネット: ミッドウェー海戦で撃沈。
  • ワスプ: 第二次ソロモン海戦で撃沈。
  • レンジャー: 北大西洋でドイツ潜水艦により撃沈。

となっていますが実際は、
  • サラトガ: 健在(終戦まで生き残る)。
  • ヨークタウン: ミッドウェー海戦で撃沈。
  • レキシントン: 珊瑚海海戦で撃沈。
  • エンタープライズ: 健在(終戦まで生き残る)。
  • ホーネット: 南太平洋海戦で撃沈。
  • ワスプ: 第二次ソロモン海戦で撃沈。
  • レンジャー: 健在(終戦まで生き残る)。
なので事実とは異なります。

ただし実際に昭和17年秋には、太平洋からこれらすべての米空母を追い出した時期があったので、全部が虚偽や誇張というわけでなく、戦果の誤認による過大評価も多分に含まれていたと思います。


「大海洋航空作戦の展開」という、英米戦におけるこれまでの戦果報告を紹介した章。

輝く海軍航空隊 11

上写真はその中でも北方作戦からソロモン海戦までのくだりが報告されているページ。戦果の過大評価は変わらずですが、この頃の戦闘では味方の被害も相当出てたにもかかわらず、そこには一切触れられていないのが興味深いです。



輝く海軍航空隊 12

ただ巻末に近いページにある昭和18年4月以降の航空戦の戦況においてはアッツ島守備隊玉砕の事が書かれていまして、見落としがなければこれがこの本における唯一自軍の被害について具体的に記述されている箇所です。
実際この戦いの事は、戦時下において国民に発表された初の日本軍の敗北として知られています。



輝く海軍航空隊 13

海軍航空隊の活躍をひととおり説明した後は最終章となり、これだけやっつけても米軍は物量に物を言わせて次から次へと新戦力を前線に投入して来る。現代の戦いは航空戦であり、彼らに打ち勝つにはどうしても飛行機と搭乗員の数が必要なので、諸君も共に戦いましょうという流れになっていきます。

そしてここから先はその具体的方法が書かれており、海軍飛行予科練習生、いわゆる予科練に入るにはどうすればよいのか、そして予科練ではどのような事を学んで生活し、晴れて航空隊に配属されるのかが説明されていて、入隊の手引書的な内容に変わります。

輝く海軍航空隊 14

予科練というのは志願制の少年飛行兵養成制度でして、満14歳から入隊資格があり(乙種の場合。甲種は15歳)、当時徴兵が19歳からだったので、それより早く兵役に就く事が出来たのです。パイロットは高度な知識と技量を要するので、それまではなろうと思っても審査が難しくてなかなかなれなかったけど、今は制度が変わってやさしくなり採用枠も大幅に増えたので簡単になれますよとこの本で説明されています。実際のところは戦況悪化で搭乗員を大量養成しなければばらなくなったからでして、この翌年末くらいからは特攻隊の訓練を行う場所になってました。



さて読了しての感想です。

航空隊の歴史や組織構成、飛行機や空母の説明などについては、現代の資料本と書かれてる事ほぼ同じなんですが、「昔こんな事があったのです」と「今こんな具合です」では全く違った印象でした。

自分が生まれる前の話というのは、知識として理解していても感覚的にピンと来ないものですが、この本を読んでいると確かに今から74年前日本は英米と戦争中で、政府や軍隊はこんな事を国民に伝えていたという、戦時下の張り詰めた空気が文章から生々しく伝わってきます。
これがもっと昔の本であれば逆に歴史資料として距離を置いた見方が出来たのでしょうが、両親や祖父母がそこには生きており、しかも自分が生まれる20数年前程度の昔なので、本の内容が自分の知ってる世の中と線で繋がっている部分が所々に見受けられ、妙にリアルなのです。

にしても戦果報告については、こんだけ一方的に勝ち続けてるという話を国民は素直に信じ込んだのだろうか?という疑問は残ります。しかしそれは自分がその後の未来を知っているからであって、言論統制されたあの当時の年端もいかない少年少女がこの本を読んだとすればどうだったのか?あるいは「うっそだー!」と内心思っていても、それを口に出せる世の中ではなかったでしょうしね。

そんなわけで当初サッと読むつもりが、読んでいるうちに色々思うものがありまして、史実と付け合せたりしながらじっくり読むうちに1か月も経ってしまいました。読書中の頭の中は昭和18年秋でしたね。

ちなみにウチの父親は昭和3年生まれなので当時15歳(12月生まれなので正確には14歳)で、この本のターゲットど真ん中です。
予科練とかの志願兵に関しては、11人兄弟の末っ子で、兄が既に2人戦死していたこともあって行かせようとするまわりの空気もなかったし、本人も行く気なかったと聞いてます。



あと模型電動士さんからは、役所広司が主演した映画「聯合艦隊司令長官 山本五十六」の台本も一緒にいただきました。

聯合艦隊司令長官 山本五十六 台本 01 聯合艦隊司令長官 山本五十六 台本 02

山本五十六は新潟出身なので地元の英雄なのです。
その地元企業にお勤めという事で、お仕事がらみで手に入れられたそうです。
こちらもありがとうございました。
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【theme : 模型・プラモデル
【genre : 趣味・実用

⇒comment

Secret

まさにタイムスリップ本でしょ?

病み上がりなのに、力の入った記事をありがとうございました。

おまみさんもお書きになっているように、
”「昔こんな事があったのです」と「今こんな具合です」では全く違った印象”
が、この本の価値ですね。

だからこの本と対峙する時には、今が昭和18年で、もちろん後付の知識は持っていないとし、さらに自分が15歳の少年だったらこの本を読んで予科練に入りたいと思うだろうか・・・そんなスタンスで読むと感じるところがずいぶん変わってきます。

また、うちの親父も18歳で予科練に入隊し、奈良・釜山・霞ヶ浦・郡山の基地を渡り歩きながら、九三中錬で訓練でしていたものですから他人事とは思えません(仲間の一部は震洋や回天に乗ったらしい)。

そんなわけでおまみさんにこの本を読んでもらえて、またこのように記事を書いていただいて、とても嬉しいです。

反応早っ!

>模型電動士さん

そちらに更新報告のメール送ったばっかなのに、
それより先にもうコメント書き込まれててびっくりです!
今回はどうもありがとうございました。

ちなみに一昨年他界した僕の母方の叔父は、
予科練かどうか定かでありませんが海軍志願兵で回天の訓練をしていました。
途中で終戦になったので出撃せずに済み、戦後は海保に入って定年まで勤め上げました。

生きていたらこの本読ませてあげたかったですね。

No title

模型電動士さんと交流があったとは


それはともかく、変わらぬスタイルのここのブログの美点の1つは
こうして気軽にコメントできるとこだと思います
今後も記事を楽しみにしております

No title

はじめまして。いつも興味深く拝見しております。

今回は実に貴重な書物を、わかりやすい解説とともにご紹介頂きまして、まことにありがとうございました。夢中になって読み耽ってしまいました。巻頭のグラビアの写真も鮮明で、当時としてはかなり質の高い書物なのではと思いました。

米軍機の解説は、確かにかなり正確で、とかく巷に伝わるような「無知蒙昧な旧軍」などという認識が謝りであることが実感されます。反面、米空母の動向については、希望的観測か国民の動揺防止の意図によるものか、過大評価が過ぎるようです。

私の叔父は海軍の操縦士として、雷電に搭乗して台湾沖で戦死しました。今回は改めて逢ったこともない叔父のことが思われました。

ありがとうございました。

再度失礼します

お二人が書き込まれていましたので、またまた登場させてください。

>魚沼マンさん
そのお名前からすると、もしかして新潟在住でしょうか。
おまみさんとは2000年以来のお付き合いです。私がサイトを開いた時に真っ先に連絡させていただき、一番目のリンク先になりました。
その後色々と仲良くさせていただいています。
おまみさんのことは「戦友」だと思ってまして、「ここまで来たら、サイト運営も続けられるだけ続けよう。先にギブアップした方が負け」みたいな感じで私は思ってます。
おまみさんがどう思っているかはわかりませんが・・・。

>ゆーぼうさん
模型電動士と申します。初めまして。
「夢中になって読み耽ってしまいました」と書かれていたり、戦死された叔父様のことが書かれていたので、こちらも若干追加でページを紹介させていただきます。

http://www.mokeden.jp/itiji-2.htm

もしよろしかったらご覧くださいませ。

No title

>魚沼マンさん
模型電動士さんが再び現れて全部回答されていますのでそういう事なんです。
長い縁ゆえ今は昔ほど密な連絡は取らなくなっていますが、
お互い相手のサイトはいつもROMしてるので、今回のような事もあったりするんです。


>ゆーぼうさん
はじめまして、感想ありがとうございました。

この本には、「戦争に勝つには機力(武器の質と量)、術力(武器を使いこなす技量)、
精神力の3つが重要で、その一つだけでは力を発揮することはできない。
いくら精神力がみなぎっていても刀の使い方ひとつ知らないのではどうにもできない。」
と事ある毎に書かれていまして、
我々の知る精神力だけで押し切ろうとした旧軍のイメージとは
必ずしも同じではないのが新たな発見のひとつでした。

No title

>おまみさん

わざわざお返事ありがとうございました。

仰るように、旧日本軍というと精神力一辺倒みたいなイメージが定着していますけど、これは戦後マスコミなどによって作られたものだという気がします。

補給を軽視していたということも言われますけど、私が持っている記録映画「轟沈」のDVDには、出撃前に潜水艦の艦長が「補給路を絶つことは、敵の死命を制することになる」と訓示する印象的なシーンが出てきます。

ここでは、乙型潜水艦の艦橋の細部なども興味深くて、何度も見ています。

No title

初めてお邪魔します。
私は飛行機が好きで色々古本を漁ったりしております。さて戦時中の状況ですが、当時の日本とて決して一枚岩ではなかったので、本や著者によっては過剰な精神主義に陥らず戦争について語っていることもあるのですが、総じて今の目で見るとトホホと言いたくなるような記述が多いようです。欧米の情報については、中立国経由か?かなりリアルタイムで知られていたようです。日本機については、機名が伏せられていることが多いんですけどね。その他にも今とは忘れられたり、少しニュアンスが違って伝わっていることがあったり興味深いです。

お暇ならお越しください(飛行機夜話というサイトやっています)↓
http://hccweb5.bai.ne.jp/~hee30101/index.html 

No title

>泉水 閑 様

はじめまして。
貴サイト拝見しましたが、航空技術について詳しい知識をお持ちの様で、当時の本に紹介されている最先端のさまざまな試作技術や認識が、現代から見てどれくらい的を得ていてどれくらい外れていたかわかりやすく解説されており、とてもためになりました。ありがとうございます。

ちなみに小松崎茂氏の機械化は、2年半ほど前に出た復刻版を私も買いました。荒唐無稽な中にも現代に実用化された技術もあり、ちょっと驚かされましたね。
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